旅に出ると、何かをしなければという焦りがついてまわる。地図を広げ、ルートを組み立て、名所と呼ばれる場所を一つ残らず回らなければならない気がしてくる。ところがある朝、そのすべての計画を手放して、ただそこに座っていた。何もしないと決めた。
部屋には木の棚と低い卓、そして韓紙の灯りがあった。灯りから滲む光は、明るくも暗くもなかった。陶器の器が一つ卓の上に置かれていて、それだけで空間が十分に満たされているように感じた。何かをさらに足さなくていいという感覚が、最初は少し戸惑いを覚えさせた。

窓の向こうに山が見えた。長方形の窓枠が、山の稜線を静かに切り取っていた。韓紙の灯りがその傍らに吊るされ、格子の桟の隙間から外の光が滲み込んできた。わざわざ外へ出なくても、この窓一枚で十分な景色だった。名所とは、必ずしも足で歩いてたどり着く場所だけではないかもしれない、とふと思った。

もう一つ窓を見つけた。木の枠の向こうに瓦屋根が見え、その下の小さな庭に石畳が続いていた。蔦か、名も知らぬ小さな草が石の隙間に根を張っていた。壁紙の木目が、光を受けてほのかに浮かび上がった。そういったものをゆっくりと目に収めるのに、かなりの時間がかかった。急ぐ理由など、どこにもなかったから。

午後になると、山の色が変わった。黄色く色づいた木が一本、建物の脇でひとり秋を背負って立っていた。曇り空の下、山の裾が赤や黄に染まっていた。それを見るためにどこかへ移動する必要はなかった。ただこの場所で、この角度から、光が移ろうのを待てばよかった。

夜の帳が下りて、部屋に戻った。木の梁が低く渡された寝室は壁が白く、布団の色が美しかった。床には目の詰んだラグが敷かれていた。壁に取り付けられた灯りが一つ、ほのかに灯った。横になる前に、しばらく天井を見上げた。梁の木目は、その木が重ねてきた年月の分だけ深かった。

一日が過ぎてから、ようやくわかった。何もしていなかったわけではなかった。光が動くのを見ていた。窓枠が作り出す景色を発見していた。木と石と瓦が積み重ねてきた時間を、少しずつ読んでいた。空間のほうから語りかけてきて、私はただそれを受け取っていた。名所は外にだけあるのではなかった。心が宿る場所であれば、どこでもまた一つの名所になる。
あなただけの、心の紋様を見つけてほしい。